愛年<ai-nen>

愛しいチョコレートひとかけらがあればどんな嘘でも生み出せる

少し死にたくなるなんて大寒の夜に思うのは陳腐すぎる

息があまりにも白いから次は雪をと欲張って雲に願う

ぬるんだ水で米を研ぐ指先は春のひそかな始まりを知る

死に逝く冬の何某糧にして生命の産毛が咲き乱れる

吐息さえいまだ輝く三月の朝に待つ人の心を知る

花屋に並んだひまわりに早回された季節の存在を知る

次の雨で散ってしまう木蓮とただ走り去る春と私と

日陰で遅咲くマグノリアが月の白い明かりでダンスを踊る

暗闇に浮かぶオリオンですらもう汗ぬぐうほど春は深まり

まどろみに流されていくこの午後の湯気の向こうにはアゲハチョウ

海原をモザイク様に照らす日が眩い水晶を生み出す

NOIRと唇を泳がす人の肩に止まりしクロアゲハテフ

入梅も判らぬほどの日差し降り濡れぬ傘開く乙女たちよ

ウォータープルーフの女の首筋雨粒がそっと流れ落ちる

水菓子がのどを静かに落ちていくこの日この午後にもう会えない

色黒く焼けた男の手にするは雪のごとくに白い指指

表紙に浴衣纏いし女性の雑誌誘いて夏が開かれ

蒸した風抜けて流れる七夕のホームとホーム別れて帰る

西日さすこの部屋一人汗を掻き為すこともせずただ薔薇色に染む

いらだちを積み重ねても太陽を頂く天に触られぬ夏

冷房の効いた車内人あらずふと香るのは夏色の夢

読み出したフリーペーパー飽きた頃隣に誰もなくただ日差し

枯れないで例え日差しが今世紀最も強く君を射しても

今すぐに世間が終わり逝こうともアケビは熟れて知らずに割れる

おみなえし早くも開き密やかに秋は進むと誰か教える

秋刀魚達買い物袋からのぞくくってやるから安心してな

芥散るこの部屋に降る陽光の色の変わりに気がつく秋

溶けていくそのはかなさがいとおしく思わず涙何か思いて

夕暮れがあまりに早くこの心流れる雲に涙を添える

心の園に木枯らしとともに入る奴を心底罵ってやる

鈍いコバルト色が広がる空のした私だけがたった一人

羊雲がどこか知らない所を目指してコバルトの海を泳ぐ

マフラー巻く女性のつぶやく苛立ちでさえ温もりのある朝

凍えそうで缶コーヒーを掛け替えない物のように握り締める

夕闇が足早に世界をまたぎ夜の始まりを騒ぎ立てる

小さく呟いたことが瞬間に白く色付いて消えていく

ヒルトンの辺りでは昴を木に飾り聖なる夜を待っている

色付かない常緑木に苛立ちと頼もしさ併せ知る

車内広告のファー特集が陽気の中で暑苦しい

今年もシベリアの白い鳥が緑の堀をやわらかに染める

暖かい空気のなかにいるけど冬が来ることは忘れない

知らぬ間に冬らしい世界に迷い込みでも慣れ暮らす私いる

古都の落日に重なるかのような夕焼けに紅葉が融けていく

体温を知るために体を限りなく冷たくして待っているよ

毛布に包まっていればそのまま死んでも温もり続く気がする

首の圧迫感と温もりマフラーがくれるものは恋に似てる

他人のファーが触れる満員電車は少しだけ柔らかい

ひっそり座り見つめる先になべの湯気と今年のトピックスたち

足元を流れる青い風に耐えて家路にいたる列車待つ

寒い日に寒い色を着てみる心のぬくもり漏らさないように

コートの裾が風を拾い毛羽立っていく不愉快さと暖かさ

デパートから吹く暖かい風にしみ込んでいるきんいろのひかり

ゆずの無い買い物籠でレジに並んで居たって冬至は暮れていく

ツリーのしたに落ちている飾りが微細な淋しさを胸にくれる

雪はなくても生クリームがクリスマスを白く飾り付けている

不器用に作った歌を数えながら今年に思いを馳せてみる

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