2004/11
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老犬が弱々しく咳を吐くまだ冬はこれからだというのに
曇り空に赫々と眩しい柿の実を狙う漆黒の烏
高野山の色付きと対照的な並木を焦らすなと思う
乗り遅れた電車を待つ私に吹く風が透明で冷たい
コバルトに澄んだ青空をたくさんの鳩が飛んでいく何処かへと
肘の冷たさで目覚める夜明けに私自身が二度寝を薦める
色づき始めた蜜柑が小雨曇り空の中冬本番待つ
小雨が降り始めて肩を静かに濡らすひとりただ独りなのに
チョコレートのかけらが口の中で解けていくのを噛み締めてみる
夕闇が足早に世界をまたぎ夜の始まりを騒ぎ立てる
暗やみが溶ける街に鮮やかなファーのジャケットが翻る
街灯の下を歩くときに感じる淋しさが家路を急がす
ビルの屋上から棚引く蒸気がいかに寒いかを知らせる
小さく呟いたことが瞬間に白く色付いて消えていく
透明度はますます高まりサンザシが狂おしい位に赤い
どんなに風が冷たくてもチョコレートさえあれば大丈夫
体に住まう風邪のけだるさと頭痛のわずらわしさは仲がいい
痛む咽のしゃがれた声が一層愛しいのはなんと不思議か
散りもせず初夏のように緑の葉葉を茂らす桜の不気味さ
六甲の明るすぎる山肌に紅葉という炎が燃え盛る
ヒルトンの辺りでは昴を木に飾り聖なる夜を待っている
渋滞する車列が特別なイルミネイションに見える時季
快速の扉近くの隙間風は焚き火の匂いを帯びている
小春日和のようなこんな日にあなたに会えるのはきっと良い事
時季外れの朝顔は何故咲き続けるのだろう心が騒つく
ノベンバーの冷たい風むせる客車内に目眩を感じる
うみのいろは全く暗い感じとなりその冷たさを考える
色付かない常緑木に苛立ちと頼もしさ併せ知る
海鳥が果敢に高い波に向かう私は遠くから見るだけ
車内広告のファー特集が陽気の中で暑苦しい
煉瓦色に染まった空がジェリコの壁とならないことを祈る
豊かに深まる秋を烏が確かめるように俯瞰している
ちょっと触れていたいだけなのに涙で黄金の満月が歪む
絶え間なく環状線が走る街でマフラーを巻いてみる夜
強すぎるリキュールが体をめぐり私はたまらず横になる
今年もシベリアの白い鳥が緑の堀をやわらかに染める
立冬過ぎの夜明けに手足冷たく自身に温もりを求める
水平線の果ての異国はもう凍り付くほど寒いのだろうか
世界の天気予報のシンガポールに掻かない汗を知らず流す
とても良いことを考えながらオリオン座下の御堂筋を歩く
薄く棚引いた雲が成層圏の冷え込みを私に伝える
話し声に静かな咳が交じるよく冷え込んだ朝の食卓
心にポツリポツリ小雨がしみる空の果てはもう明るいのに
寒くて心細いので不安な色を空に塗りこめると曇り
雑誌の卑猥な記事のなかに秋の味覚不足なく満たされる欲
赤く実りはじめた喉を鏡ごしに見るとより赤く感じる
暖かい空気のなかにいるけど冬が来ることは忘れない
ビルを出て街の空気に触れる赤く染まる頬が緊張する
首もとを流れる冷たい空気に清々しさと憂い感じる
よい人に出会えたのだと新聞紙のほほ笑みを見て共感する
ティーサーバに初めて注ぐお湯はきっと深く深く温かい
スムースさの無い冷たい雨に濡れるはかなく指先がかじかむ
呼吸困難で目覚める朝は冬の匂いも味もわからない
静まる事無く降る雨のした二人が同じように寒いのなら
どこまでも澄んだ蒼が塔のように聳える冬の寒さと鮮度
朝日が窓辺に騒ぐ通勤車両の温もりと憂欝さ
枯れた喉で希望の歌を歌ってもなんだか少しも嬉しくない
快適を守るために咳を押し殺している私の不快適
カシミア混のコートに袖を通そうかと迷ううちに朝になる
空気の冷たさに驚きの声を出すと真っ白な雲になった
こんなに寒い日はこないと思っていたのにアラウンドアゲイン
沈黙の曇天のしたでは吐く息の白さが際立って光る
明るく燃えるストーブの暖色は今年も変わらず暖かい
摩天楼にかぶさる雲の中の静けさと冷たさを考える
あさぎ色の水面がいかに冷たくても水鳥は浮かんでいる
強まる雨足に明日はもう凍てついて明けないのではと思う
晴れない雲の下で週末ばかり気にしている晴れるかどうか
西高東低の訪れない冬の過ごし方私は知らない
お歳暮売場の混雑した空気は歳末色そのままの色
この冬初めて袖を通したコートは約束通り暖かい
知らぬ間に冬らしい世界に迷い込みでも慣れ暮らす私いる
襟元の毛皮に命はもうないのに暖かさだけはそのまま
白と青と茶とアルミの列車には冷えた空気がよく似合う
吐息で曇る窓硝子の果ての街はベルベットみたく霞んで
はち切れんばかりに熟した柿は満月に照らされて妖艶
夜露は降りた切り帰り行かないがあなたには帰ってきてほしい
手が冷えきって物の凹凸すらわからないでもこれは知っている
取り残されたオクラは実って弾ける事無くみどり
レールの上を滑る車輪の冷たさは回っていても伝わる
何も思いつかない良く惚けた日に吐く息はいつもより白い
リースを写し出した駅張りポスターが年末を加速させる
碧く冷える空に霞がかかり紅葉狩りの紅葉に気を払う
霜降りても輝きを失わない艶蕗の黄色い光明
秋らしい青空の下知らない土地を電車で駆ける爽快
王寺斑鳩法隆寺陽射し温かな車窓から眺める
太極殿跡地にある奈良駅でたおやかな空気に包まれる
遥か彼方に見える若草山の鹿の無表情を思う
古池の亀が意識することもなく見つめる先に熟れた紅葉
敷き詰められた銀杏の黄色に低く埋まる鹿と鹿と鹿
落下する赤に魅入られているうちに煎餅を鹿に奪われる
東大寺の陰に潜み暗く燃える紅葉の闇に吸い込まれる
奉じられる線香の霞み立ち上る先に色づいた香具山
古都の落日に重なるかのような夕焼けに紅葉が融けていく
葛湯の袋まで万葉に染まっているこの邦の空気の質
右近の橘が少しだけ冬をおすそ分けしてる興福寺
かつて参じた彼らが散じても万葉の気配は時を越える
帰り道眠ってしまいすべて夢のように思う紅葉も寺も
新しいドラゴンクエストの話題が白くなって溶けてなくなる
日々寝床に流れるにつれてほおを撫でる空気の冷たさが増す
体温を知るために体を限りなく冷たくして待っているよ
唇に朝日が触れる温もりを感じながら今日また生きる
手を伸ばせば届きそうな紺碧成層圏は冬の贈り物
出揃いだしたクリスマスケーキ昨年の甘さ不意に思い出す
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